風を読めなかった自民都連

2016年8月1日月曜日

風を読めなかった自民都連

2016年7月の東京都知事選挙が行われ、小池百合子候補が圧勝を収めた。

この勝利は、小池候補本人の力量もさることながら、他陣営の失点という見方が多い。




真っ先に都知事選への立候補を表明した小池候補に対しては、自民党東京都連の推薦を得られるかどうかが注目の的となった。

これを「順序が違う」と突っぱねるところまでは通常のものであったが、その後もいわゆる櫻井パパを巡ってのドタバタがあり、結局は櫻井パパの擁立には失敗してしまう。

ここで引っ張りだされたのが増田寛也氏(元岩手県知事)で、自民党の推薦候補として担ぎだされることとなる。知名度に劣り、さらには東京五輪を控え心理的には華のある候補を求める選挙民にとっては「地味」な印象しか与えない人であった。

さらにまずかったのが増田氏本人に東京都知事になりたいという意思があまり感じられなかったことだろうと思う。そもそも増田氏は、都知事をやめた後は第一次安倍内閣、福田内閣で総務大臣となり、地方再生に取り組んできた人物。さらにその後も東京一極化への警鐘を事あるたびに発信してきた。それが真逆の東京都知事になるというのだから、言行不一致ととられても仕方ないだろう。


さらにもう一人、野党統一候補として担ぎだされたのが鳥越氏で、蓮舫氏・長嶋氏が続いて自体した後に、立候補を決める。

いわく「参議院選挙の自公圧勝を見ていて、自民独走を許してはいけない」と立候補を決めたそうで、もうこの時点で負けていたようなものである。鳥越候補陣営でまずかったのが「国政」と「都政」を混同している点であった。

そもそも今回の都知事選は、石原元知事の後を受け副知事から知事となった猪瀬氏が金銭トラブルで退任、その後の舛添知事も同様に金銭トラブル(公私混同問題)で退任を受けてのもので、都民としては、東京五輪を控え、「とにかく東京都政をまともにして欲しい」というのが第一義であったのに、つい直前まで「アベ政治を許すな!」などと叫んでいた人物に投票する気にならないというのが本心だろう。

その後も原発ゼロ、ガン検診100%など口を開くたびにトンチンカンな政策が飛び出した。



選挙中盤で一気に流れが変わったのが、増田候補の決起集会での石原元知事の次の発言であったといえる。

元知事は、いつもの調子で「大年増の厚化粧がいるんだな。これは困ったもんでね、嘘つきだと思う。」などと小池候補をこき下ろしたのだが、この発言を増田候補もその場にいた否定もしなかった。※後に人に聞かれても、勘違いしていたなどと言い訳に終止した。

この発言で都知事選の潮目は大きく動き、小池候補の勝利は決まったようなものだった。

女性全体を侮辱し、敵に回したこの発言に対して、「絶対に許さない」と考えた人も多かったと見え、自民党支持者でさえ50%近くの票が(党推薦候補増田氏ではなく)小池氏に流れてしまっている。

さらに鳥越候補の過去の女性問題が週刊誌に載り、さらに鳥越候補すらこの石原発言に乗っかってしまい、応援に来た蓮舫氏にいなされるという場面まであった。

都連や石原氏をはじめとする自民党ばかりでなく、鳥越氏を擁立した野党連合すら、「女性が票の半分を握っている」という厳然たる事実を忘れてしまっていたとしか思えない。ただでさえ、舛添氏を追求できなかった自民都連への不信感がある上に、女性蔑視という限りなく古臭い言動を見せつければ、票が離れて当然だったろう。


この一連の動きにより、女性選挙民はおろか、クリーンな都知事を求める選挙民から一斉にそっぽを向かれたと思っていいだろう。

すでに政党支持者だけで決まる選挙ではなくなって久しい。いわゆる無党派層の取り込みこそが大事なのに、その無党派層を動かす「風」を読み違えてどうするのだと言いたい。民主党に負けて野に下ったことで目が覚めたと思っていたが、まだまだ古臭い考え方の議員がいっぱい残っていることが白日の下にさらされてしまった。



なお小池候補は、自民党への推薦願取り消しを行った後に「進退伺」を党に提出している。これはまだ有効であり、小池候補を応援した党員に対して厳罰を処するとまで大上段に振りかぶってしまった自民党(特に自民都連)はこの処分をめぐって非常に難しい選択を迫られることになる。

党の規律を優先し小池氏を切ることが筋のように見えるが、今回300万票近い圧倒的な支持を集めた小池氏には東京都民の支持がバックにあり、厳しい処分を通達することはとてもできない。もし選択を誤れば、小池氏には新党設立という最終手段も残されている。

既得権益の象徴と映ってしまっている都議会との対立路線は、おおさか維新や名古屋の維新勢力との連合を視野に入れれば、自民党にとっても決して侮れない勢力に育ってしまう可能性も秘めている。ここを穏便に済ますことができなければ、国政への影響も少なからずあると言わざるをえない。



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